過去の亡霊は、自分の思い込みが生み出したもの

2023.01.01

私が担当した選手に、暑い日に全身痙攣が起こることで悩まされていました。

よくよく話を聞いていくと、かつてボロ負けして、「全日本選手権は嫌だ」となったのも、「試合中に全身痙攣で倒れる不安」というのが原因のようでした。

つまり、彼がとらわれていた過去の結果とは試合中に起こるかもしれない「全身痙攣になる不安」だったのです。

今回は、過去の亡霊に負けない自分をイメージするトレーニングについてお話をしていきます。

過去の結果に自分が縛られるのは、「過去の亡霊」の存在があるから

なぜ不安に思うのか。今度は、さらにその原因を探ります。

「最初に全身痙攣になったのはいつですか」

「中学の時」

「中学の時にどんなシチュエーションでなりましたか」

「暑い日に練習のし過ぎで水を飲むのを忘れて、全身痙攣で倒れて、救急車で運ばれました」

「その時、何が一番嫌でした?」

「コーチに『だから、お前はだめなんだ。お前は気持ちが弱いから、そうなるんだ』と言われました」

「原因はそれですね。そこから自分を解放しましょうよ」

彼は水をきちんと飲んでいるので、体の仕組みとしては、全身痙攣を起こす状態にありません。

これは予期不安といいます

「また全身痙攣になって、こんな嫌なことが起こったらどうしよう」

人は絶対そうなりたくないと思うと、そうなってしまうものです。

だから、「そうじゃない」と気持ちを切り替える必要がありました。

ある暑い日に私と彼は練習場に出かけました。

「今日は私がいるので、いつでも全身痙攣を起こしても大丈夫ですよ」と言いました。

そうすると、本当に気分が悪くなったり、震えが出るなどの全身痙攣の予兆が出てくるのです。

彼をベンチに座らせ、深呼吸をしてリラックスさせます。手足が冷たくなっていたので、手足を温めるイメージトレーニングをしました。

脳の無意識の思い込みから、体に反応が出るのであれば、イメージトレーニングをすれば、体の反応は治まるのです。

「何だかラクになりました」

「わかりました。もし立っても大丈夫なぐらいに気分がよければ、ラケットを持って、テニスコートに立てますか。打たなくてもいいんです」

彼はテニスコートに戻って、素振りをしはじめました。

「先生、いけそうなんですけど」

試合中ではないので、無理をせずに「打ちたい」「打てるかも」となっている気持ちで止めておきます。

彼は水をちゃんと飲んで、全身痙攣を起こさない環境を通っています。

そこで「過去の亡霊」がちょこっと出てきたら、自分でイメージトレーニングをしてから、コートに戻るようにしてもらいました。

「過去の亡霊」、つまり自分の思い込みに、自分を徹底的にやっつけることはできないとわからせるのです。

1週間後にトーナメントがあり、彼は試合中に全身痙攣の予兆が出てきたので、自分でイメージトレーニングをして試合に戻りました。

そうして、その試合に勝ち、トーナメントで優勝したのです。その日以来、全身痙攣は出なくなりました。

「過去の亡霊」は、完全に消えたのです。

このように過去は意識せずとも、すべて自分のなかにあるものです。

人間は、自分が作り上げている過去のネガティブな物語に、今を支配されがちですが、それを消していくこともできるのです。

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