思考や価値観のプレッシャーはトラウマとの戦い

2022.12.16

元プロテニスプレーヤーの岩渕聡さんは、私と出会うまでは全日本選手権で優勝したことがありませんでした。

彼は当時30歳。

引退を考え始めていたころだったのですが、全日本選手権という大事な大会でタイトルをそれまで取っていませんでした。

実力があるだけに、そのタイトルなしでは、やめるにやめられない状況だったのです。

今回は元プロテニスプレーヤーの岩渕聡さんの例に出しながら、どのようにトラウマと向き合っていけばいいかについてお話をしていきたいと思います。

トラウマとなった理由を探り、自分をしばる枠をはずしたら、自分の力を出しきることに専念しよう

彼は若いころに全日本選手権の決勝で、プレッシャーのためにボロボロに負けた経験がありました。

私と会う前年は、1回戦で格下の相手に負けると言うこともありました。

試合会場のある有明方面に車が向かうだけで頭痛がするほど、全日本選手権はトラウマになっていたのです。

全日本選手権にこだわっているはずなのに・・・。

試合の2日前に会うと、彼は「嫌だ。やりたくない」と言っていました。

勇気づけても、プラスのメッセージを送っても、打破できないような悪しきトラウマができあがっていたのです。

そこで私は1つの提案をすることにしました。

「わかりました。そんなに全日本選手権が嫌なら、今年限りで終わりにしましょう」

「ええ!?」

「だって、嫌なんでしょう。だから勝っても負けても今年限り。優勝しようがしまいが、そんなことはどうでもいいんです。最後の全日本選手権ですから、今まで自分がやってきたことすべてをぶつけてください。岩渕聡という素晴らしい才能を持ったアスリートがどんな試合をするか見せていただきます

から、やってみてください」

大事なのは、自分の枠を外して、集中しきって「これ以上やったら、死にます」というぐらい、死ぬ一歩手前のパフォーマンスを出しきった経験ができれば、もはや勝ち負けは関係ありません。

必ず何かが変わります。

優勝は単なる結果で、死ぬ一歩手前のパフォーマンスを出して、優勝できないのなら、それが実力

ということです。

また練習すればいいだけの話なのです。

岩渕さんには「全日本選手権が嫌」というトラウマ以外にも、試合に集中できない理由がありました。

彼は過去に何度か暑い日の長時間の試合で、全身痙攣を起こして倒れた経験があるのです。

「また倒れるかもしれない」というプレッシャーで、疲れてきたらボールを追わなくなってしまい、パフォーマンスを落としていました。

「また、全身痙攣が起きるかもしれない」

「じゃあ、起きた時は棄権しましょう。でも、倒れたらカッコ悪いと持てる力をセーブして、つまらない試合をしないでください。取れるボールを追わなくなったら相手が図に乗ります」

「でも、倒れたら迷惑をかけますよね」

「岩渕さんは倒れた選手を見て、迷惑だと思いますか?」

「いや、倒れるまで頑張ったんだなと思います」

「だったら、あなたが倒れても、みんなそう思いますよ。1回ぐらい倒れるまでやったらどうですか。絶対に倒れませんから。倒れるのが心配であれば、私が知り合いの看護師に付いてきてもらえるよう頼みます。いつでも倒れられる状況を作って、倒れるまで走ればいいんです。そうしないと最高のパフォーマンスが出ないと思います。最後の全日本選手権がそれでいいんですか」

そう言ったら、彼ははじめて自分専属のフィジカルトレーナーを雇ったんです。

彼のなかの「全日本選手権は嫌」「倒れるかもしれない」というプレッシャーは消え、最後の全日本選手権だから倒れるまで戦うことを心に決めたのです。

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