2023.08.29
こういう話を聴いたことがあります。
名優といわれるベテラン俳優が、毎日毎日病人の役をやっていたら、ついに実際に病気になってしまったというものです。
偶然の一致かはわかりませんが、病気で余命いくぼくもないという壮絶な演技を毎日演じているうちに、気がついたら脳が病気のイメージを作り出し、結果として本当に身体の反応として起こってしまった可能性は否定できません。
俳優はイメージを思い描いて再現する天才ですから、普通の人よりもはるかにイメー ジ力が高いはずです。そのため、身体の反応も引き起こしやすいといえるでしょう。
俳優だけでなく、トップアスリートにもイメージを強く描く才能のある人がたくさんいます。
これは、長年の厳しい練習の中で、イメージ力が鍛えられたからではないかと思います。
体操競技やフィギュアスケートなどは、まさにイメージの再現であるといえます。
やったこともない技をこんなふうにやりたいとか、人がやっている技を見て自分の身体で再現してみるのです。
イメージする力がなければ、どの場面で、どう手を動かすか、身体をどのようにひねるのか、いくら頭で理論的に考えてもできません。
一度見ただけですぐに習得する”センス”がある人は、イメージする力がすごく強いといえるのです。
アテネオリンピック体操競技金メダリストの米田功さんも、非常にイメージ力の強い人です。
彼は子どもの頃から、体操の技を一度見ただけですぐにできたそうです。
まさにイメージ力を使って、脳で思い描いてから身体に伝える力がズバ抜けていたからに他なりません。
彼の母校である清風高校は仏教系の学校であるため、毎日、瞑想の時間があったそうです。
瞑想でしっかりと自分と向かい合うことによって、脳の中で様々な良いイメージを思い描く力がついたのかもしれません。
瞑想することによって、イメージ力が強く、 競技力の高い選手が生まれることもあるようです。
米田さんのイメージ力がどれだけ強いかを、実証するエピソードがあります。
絶体絶命と思われた肩の手術から復帰を遂げ、2008年の北京オリンピックをめざしていた時のことです。
重要な大会の直前に、盲腸(急性虫垂炎)が見つかってしまいました。薬で散らすことができないといわれた時、次のように思ったそうです。
「今、手術してお腹を切ったら、絶対に試合には出られなくなってしまう。どうしよう」 と。
そこで、彼に一つの提案をしてみました。
「では、駄目で元々で、盲腸が段々良くなっていくイメージトレーニングのテープを作ってあげるから、それを毎日朝晩聴いてみますか? どのくらいの効果があるかわかりませんが、米田さんは元々イメージ力の強い人ですし、内臓系の反応というのは結構出やすかったりもするので、一度やってみるに値するのではないでしょうか。駄目でと何も変わらないわけですし」
イメージトレーニングは良いイメージを描くことなので、薬も飲まないし、何一つ副作用もなく、安心して行えます。
そして彼は、毎日一生懸命イメージをしました。身体が良くなっていくイメージです。
細胞がどんどん活性化され、悪いものが身体から排出されていくイメージです。
10日ほど経って病院に行くと、医者が驚くべきことを言いました。「あれ、盲腸の影 が無くなっている!」と。彼はイメージトレーニングで実際に盲腸を消してしまったわけです。
このように、多くのトップアスリートは時折、奇跡ともいえる身体の反応を起こします。それは、実は脳が生み出す力強いイメージと感覚がもたらしているのです。<Br$
先にご紹介した、走り幅跳びの井村久美子さんは、次のような経験があるそうです。
全日本選手権でジャンプする直前、大きく深呼吸をして空を見上げると、何となく、 先日亡くなったお父さんのことを思い出しました。
彼女は大きく深呼吸しながら、お父さんの「お前ならできる」という言葉が自分の身体の中にスッと入ってくるイメージをしてみました。
その時はただ感覚的に、「お父さんのことを考えて跳ぼう」と思っただけのようです。
しかし、後から考えれば、子どもの頃から走り幅跳びを教えてくれたお父さんへの強い思いや、自分自身が何が何でもここで競り勝ってオリンピックに行きたいという思いが力になったのでしょう。
言葉や理屈ではなく、お父さんへの強い思いが彼女の脳の 中にインプットされた結果、彼女の身体は想像を絶するような素晴らしい跳躍を見せたのです。
その記録は、6メートル66センチ。この大記録は日本の女子では未だ打ち破られてません。
それは、彼女の身体能力や努力の結果であることはもちろんですが、プレッシャーのかかる場面で最高のパフォーマンスを出せたのは、あの時彼女が強く思い描いた脳のイメージによるところも大きいでしょう。