2023.09.02
プレッシャーとは一体何なのか、考えていきましょう。
まず、プレッシャーという言葉は「圧力」という意味です。
つまり、重圧として意識されるものです。重 黒圧といっても、身体に対して何らかの物理的な圧力がかけられるわけではありません。
オリンピックなどの大舞台では、スタッフとして会場入りするだけでも息ができない くらいのプレッシャーを感じることがあります。<Br$
観客一人一人が固唾を呑んで見守っている空気感が、会場全体を包み込んでいるのです。
その空気感に呑まれてしまうことが往々にしてあり、それが「オリンピックには魔物がいる」と言われる所以です。
自分自身のメンタルが弱いだけでなく、場の空気感や周りの人の思いや視線によって、大きなプレッシャーが生じることがあります。
ましてや「絶対に負けられない」「大勢の人に見られている」などと思ったら、重圧はさらに何倍にもなります。
では、このプレッシャーをどのようにして克服すれば良いのでしょうか?
実は、プレッシャーは一瞬で変化させることができます。
プレッシャーは自分の頭で作り出していて、「絶対に負けられない」と自分に期待を強く持てば持つほど、その重圧にさらされます。
ところが、リラックスした状況なら、少しくらいプレッシャーがあった方が良いパフォーマンスを発揮できます。
例えば、一人で黙々と練習するとか、原稿執筆のような一人の作業は、誰かが見ているわけではないので、プレッシャーを感じることがありません。
そのため、なかなか前に進まないことがあります。
そういう時は、例えば、あえて近くのホテルに宿泊して、チェックアウトまでにこの原稿を書き上げよう、と自分にプレッシャーをかける方法などがあります。
時間のプレッシャーをかけることによって、自分自身のパフォーマンスを引き出すのです。
ところが、重要な会議やプレゼンテーション、試合などでは、いやでもプレッシャーがかかります。
その場合は、逆のスイッチを入れるのです。
つまり、前述のように「練習のような試合」を意識して、「いつも通りに」とか「あるがままの自分で」と、日常的な状況を作り出すのです。
一流の選手たちが、ここ一番の大事な場面でいつもと同じルーティンをする理由は、実はそこにヒントがあります。
例えば、ある野球選手は靴紐を右から結ぶとか、バッターボックスに入ってからユニフォームに触れるまでの一連の動作などがあります。
記録がかかった大事な場面でバッターボックスに立つ時は、周りの期待も上がり、すごくプレッシャーがかかるはずです。
その時に、「いつもと同じバッターボックスである」と意識することによって、身体は取り立てて緊張反応を起こすことなく、いつも通りのびのびとパフォーマンスを発揮できるのです。
「いつものようにあるがまま」 これは試合前に選手たちによく告げる言葉です。
この言葉をあえて言うことによって、いつものようにあるがまま振る舞うことができます。
その瞬間、プレッシャーは一瞬で消すことができるのです。
どんな記念すべきバッターボックスでも、今まで打ってきた本一本の記録の積み重ねでしかありません。
今日一日をしっかりとやり切ることが、大きな記録の一つとなっている、そう考えられる人は皆一流のアスリートです。
次に、ある舞台役者の例を紹介しましょう。
役者にとって一番不安なのは、初日の幕が開けるまで、本当にお客様が入ってくれる のか、喜んでくれるのか、自分たちがやってきた稽古で間違いないのかということだそ うです。
初日を迎える前は、次のような夢を毎日見る役者もいるといいます。
幕が開くとお客様が誰もおらず「やばい、やばい」と焦り、そのうち何か大変な出来事が起こって、「そうじゃない、そうじゃない」と叫んでいる夢です。
そうして、いつも初日を迎えるそうです。もの凄い恐怖感が心を占めています。
イメージの中で大切なのは、自分次第ではないことと、自分次第なことを分けることです。
例えば、お客様が入るかどうかは、なかなか自分次第でどうにかなることではありません。
しかし、自分次第でできることに対して、良いイメージを持ち続けることが大切なのです。
いつもより大きな声でのびのびと演技できているとか、自分が舞台の中にしっかり入り込み、楽しんでいるイメージです。
逆に、自分次第でどうにもできないことは、いくら考えたり心配しても益々プレッシャーがかかり、緊張が強くなっていくだけです。
今ここで自分自身ができること、すなわちNow & Hereだけに集中して、良いイメージを作っていきます。
そうすると、余分なプレッシャーから解放され、緊張反応を起こさず、良い状態で活躍できるのではないでしょうか。
今度は、プロテニスプレーヤーが行ったイメージトレーニングの実例をご紹介しましょう。
それまでは、メンタルトレーナーとしてテニスプレーヤーを担当した経験がありませんでした。
そこで、試合で上手くいかなくなる時のパターンを聴いてみました。
「相手とのラリーが続くと、ついイライラして早く勝負を決めようと思ってしまい、その結果、逆に相手に足元を抜かれてしまうようなパターンです」ということでした。
実際にはストローク戦がことさらできないわけではないのに、何となく「早く決めたい」とか「長引くと自分の体力が持たない」と勝手に思い込んでしまい、ついつい自分から展開を作りにいって、焦って失敗するようなのです。
すごく真面目で、自分の試合運びについてしっかり分析できている方でしたので、こういった質問をしてみました。
「あなたにどんなメンタルがあれば、結果を出していくことができますか?」と。
「そうですね…………、やはり自分は粘れていないのだと思います。もっともっと粘って、しっかりと踏ん張っていかなければいけないと思います」
ここまでは素晴らしい自分自身のメンタル分析です。でもそれだけではいけません。
大切なことは、実際にそれができるようになることです。
つまり、行動に変化を起こすことです。その気づきを、行動のマネジメントレベルまで持っていくことが大切なのです。
そこで、ちょっとしたイメージトレーニングを行ってみました。
「あなたにとって、すごく粘れている人とはどんな人ですか? どんな人があなたにとって尊敬できる、粘れるヒーローだと思いますか? 例えば、憧れているテニス選手でもいいですし、それ以外のスポーツの選手でもいいでしょう。もしくは映画の登場人物や、子供の頃に好きだった漫画の主人公でも何でもいいのです。今あなたに必要な粘りを持っているのは、どんなヒーローでしょうか?」
彼は面白いことを言いました。
「ダイハードという映画でブルース・ウィリスが演じる主人公、ジョン・マクレーンが好きですね」
「どこが好きなのですか? タフで絶対に死ななくて負けないところですか?」
「そうではありません。映画の1シーンで、ビルの中の銃撃戦で床に飛び散ったガラスを踏んで血だらけになっているシーンがあるのです。そのガラスを足から一生懸命抜きながら、なお戦おうとしている……………。そういうのを見て凄いと思います。自分だったら そこで気持ちが萎えてしまって、もうどうでもよくなるのに、そうまでして戦うところ です」
「なるほど。全くガラスなど踏まない完璧なヒーローではなく、等身大で自分をしっかりとさらけ出しながら戦っているところが、もしかしたら格好いいと思うのですかね?」
「その通りです」
「では、今度の試合でまた長いストローク戦が始まったら、『自分はジョン・ マクレーンよりは楽なんだぞ!』と思いながら粘ってみたらどうですか?」
「はい、ぜひそうしてみます」
その後、彼は粘りに粘ったストローク戦を見せ、そのうち相手がバランスを崩し、気に得意のボレーで畳み掛けるスタイルを確立しました。全日本選手権で生涯初のチャンピオンになったのは、彼が30歳の時でした。
メンタルが変われば行動が変わり、行動が変われば人生の結果が変わるのです。