2023.09.12
私たちは、過去の辛いことや嫌なことによって、心に深い傷を負っていることがあります。
自分ではその出来事やその時の気持ちを忘れたつもりでも、同じような場面が現れるとドキドキしたりパニックに陥って、うまく体が動かなくなるのです。
例えば次のような例が挙げられます。
車を道路の左側に寄せて停める際に左側のミラーを擦ってしまったとします。
すると それ以来、どうしても左にしっかりと寄せられなくなるのです。
たった一回の失敗で過剰な反応をしてしまうのです。
そのトラウマをケアしない限り、ずっとつきまとってし まいます。
つまり、トラウマというのは、 「失敗した」という事実だけを客観的に見ることができず、先の例でいうと「幅寄せが怖い」という恐怖と「やっぱり無理かもしれない」と いう不安によって、できなくなってしまうことです。
ポイントは、普通に考えて能力的には絶対にできるにも関わらず、恐怖や不安に支配されてできなくなっているところです。
今まで当たり前にできたことができなくなるのは、強い恐怖と不安が気づかないうちに自分の行動をどっぷりと支配しているからです。
他にも、投手が直球でホームランを打たれた後に直球を投げるのが怖くなったり、打 者がデッドボールを受けた後にインコースの球に体が引けてしまうのもトラウマの例です。
過去の恐怖や痛みが再現され、また同じ目に遭いたくないと無意識に体が反応してしまうのです。
これは感情のコントロールだけではケアしきれないことがあります。
感情のコントロールは、「これに恐怖や不安を感じている」と、今、目の前の出来事と自分の感情のつながりを自覚できることです。
ところが、このトラウマが厄介なのは、過去に起こった出来事のため、自分では自覚 できないところです。
過去の記憶の中に埋もれてしまった数々の事象と結びついた恐怖や不安が強いほど、今の行動に大きな変調をきたしてしまうのです。
大震災の体験も心に強い影響を与えるものです。例えば次のようなケースです。
夜明け前、下から突き上げられるように強く揺れ、食器棚の食器がガシャガシャと音をたててぶつかり合う……………。
しかし、実際に大怪我をすることがなければ、心の中に大きな傷が残っているとは思えないでしょう。
その後しばらくして、地下鉄の中でウトウトしていたら、ブレーキをかけた車両がガ タガタと揺れます。
その時両手のこぶしをギュッと握り締め、体全体にグッと力が入り、奥歯を噛み締めています。
ふと暗闇の中でガタガタと音を立てて揺られている自分 に気づくのです。
これは、大震災の揺れを思い出して全身が不安と恐怖で硬直する、フラッシュバックです。
大きな災害の後は、強いPTSD(心的外傷後ストレス障害)に見舞われます。
当時 の状況や感情が、突然自分の中でリプレイ(再現)されることをフラッシュバックとい います。
このフラッシュバックはよくあり、望む望まないに関わらず無意識の中で起こります。
そのため、スポーツやビジネスのシーンでも、突然不思議な経験をしたりします。
デジャブといわれる既視感もこのフラッシュバックがなせる技です。
意識していないからそれらに支配されてしまうのであり、それを意識してしっかりと向かい合っていくことが大切です。
これらは、カウンセリング的なプログラムを持ったメンタルトレーニングによって克服できます。
技術的にできることができなくなるのは全てメンタルの問題なのです。無意識に抱えている恐怖や不安が解消されればまたできるようになるのです。